法廷意見
令和6年(行ツ)第372号 生活保護開始決定義務付け請求事件令和8年9月9日 第二小法廷決定 主文 本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由 民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは民訴法312条1項又は2項所定の場合に限られるところ、本件上告の理由は、明らかに上記各項に規定する事由に該当しない。
よって、裁判官三浦守の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。なお、裁判官高須順一の補足意見がある。
補足意見(高須順一)
裁判官高須順一の補足意見は、次のとおりである。
私は、多数意見に賛同するものであるが、事案に鑑み、補足して若干意見を述べておきたい。
現在、「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」と題する昭和29年社発第382号厚生省社会局長通知(以下「昭和29年通知」という。)に基づき、地方公共団体が一定の外国人に対して日本国籍を有する者と同様の基準で生活保護の支給を行っているという事実がある。この扱いはあくまで行政措置にとどまるが、例えば、昭和56年には、「難民の地位に関する条約」及び「難民の地位に関する議定書」への加入を契機として、「難民の地位に関する条約等への加入に伴う出入国管理令その他関係法律の整備に関する法律」(昭和56年法律第86号)が制定され、それまで国籍要件を課していた国民年金法ほかの社会保障関係国内法について国籍要件が撤廃された。その際、生活保護法に関しては、昭和29年通知に基づく生活保護の支給が行われていることが考慮され、法改正の必要が生じなかったという経緯もある。
外国人に関する生活保護の支給の在り方について議論する際には、以上のような事実及び経緯を踏まえる必要がある。
反対意見(三浦守)
裁判官三浦守の反対意見は、次のとおりである。
本件は、在留資格を有する外国人である上告人が、被上告人を相手に、生活保護法に基づく生活保護申請に係る却下決定の取消し及び生活保護開始決定の義務付け等を求める訴訟であり、原審は、同法が外国人を生活保護の対象としていないことが憲法25条1項等に違反するものではないなどとして、上記取消しの請求を棄却し、上記義務付けの請求を却下するなどした。
本件上告は、原判決には憲法25条1項、14条1項等の解釈の誤りがあることを理由としているが、多数意見は、決定の理由から明らかなとおり、生活保護法が外国人を生活保護の対象としないことが憲法に違反するか否かについて判断しておらず、これを合憲と判断するものでもない。
私は、生活保護法1条及び2条が同法による保護の対象を「国民」と規定する部分(以下、この部分を「本件規定」という。)のうち、少なくとも、特定活動の在留資格をもって在留する外国人であって、法務大臣が当該外国人について特に指定する活動として「本邦の医療機関において医療を受けることを必要とする特別な事情を有する者が行う疾病(又は傷害)のため療養する活動及び日常的な活動」の指定がされるもの等を除外する部分は、憲法25条及び14条1項に違反し無効であるから、原判決を破棄し、本件を原裁判所に差し戻すのが相当であると考える。以下理由を述べる。
1 事実関係等 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
⑴ 上告人は、a国の国籍を有する外国人で、平成27年2月、「留学」の在留資格の下に来日した後、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格への変更を受けて就労し、その後、在留資格を失うなどしたが、平成30年頃、体調を崩し、平成31年3月頃、末期のbに進行し、同月頃からcを開始し、現在は週3回のcを受けるとともに、千葉県からd(1級)で身体障害者手帳の交付を受けている。
上告人は、法務大臣から在留特別許可を受け(出入国管理及び難民認定法(以下「出入国管理法」という。)50条1項)、「特定活動」(同法別表第1の5)の在留資格をもって在留しており、法務大臣が個々の外国人について特に指定する活動(同法別表第1の5の表の下欄)として「本邦の医療機関において医療を受けることを必要とする特別な事情を有する者が行う疾病のため療養する活動及び日常的な活動(収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を除く。)」の指定がされている。
⑵ 上告人は、令和3年11月18日、千葉市長に対し、生活保護の申請(以下「本件申請」という。)をしたが、同市長は、同年12月1日、生活保護法に基づく保護の申請については上告人が国民に当たらないことを理由に、「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」(昭和29年社発第382号厚生省社会局長通知。以下「昭和29年通知」という。)を踏まえた行政措置としての保護の申請については上告人の在留資格では要件に該当しないことを理由に、本件申請を却下した。
上告人は、令和3年12月6日、上記各却下決定を不服として、千葉県知事に対し審査請求をした。
上告人は、令和3年12月14日、本件訴えを提起した。
2 外国人に対する行政措置による保護
⑴ 昭和29年通知は、外国人が生活保護法の適用対象とならないとした上で、当分の間、生活に困窮する外国人に対しては日本国民に対する生活保護の決定実施の取扱いに準じて必要と認める保護を行うものとし、保護等の内容については別段取扱上の差等をつけるべきではないとしている。同通知には、その保護の対象となる外国人の範囲を限定する旨の記載はない。
平成2年10月、厚生省の生活保護指導監査職員ブロック会議において行われた口頭の説明(以下「平成2年口頭説明」という。)は、昭和29年通知による生活保護の措置の対象となる外国人の範囲について、出入国管理法別表第2の在留資格をもって在留する外国人(以下「別表第2在留資格者」という。)は含まれるが、同法別表第1の在留資格をもって在留する外国人(以下「別表第1在留資格者」という。)は原則として含まれない旨、特定活動の在留資格を有する者については、個別的に判断すべき事情があり得るから、厚生省に協議する必要がある旨、難民は、定住者の資格を有しない場合もあり得るが、本国の庇護を受けられないことから、生活保護の対象になり得る旨の説明をした。
また、「生活保護問答集について」(平成21年3月31日厚生労働省社会・援護局保護課長事務連絡。以下「平成21年事務連絡」という。)は、昭和29年通知による生活保護の措置の対象となる外国人は、活動に制限を受けない「永住者」 「定住者」等の在留資格を有する外国人であって、具体的には、①別表第2在留資格者、②「日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法」に定める特別永住者、③難民の認定を受けている者であるが、特定活動の在留資格を有する者のうち日本国内での活動に制限を受けないもの等について疑義がある場合には、厚生労働省に照会されたい旨の取扱いを示した。
⑵ 生活保護法による保護は、地方公共団体が法令に基づいて実施しなければならない事務であって、国と地方公共団体相互の利害に関係がある事務のうち、その円滑な運営を期するためには、なお国が進んで経費を負担する必要があるものであり(地方財政法10条4号)、国は、市町村等が支弁した保護費(保護の実施に要する費用をいう。)等の4分の3を負担しなければならないが(生活保護法75条1項)、「生活保護法による国庫負担金の取扱いについて」(昭和44年7月25日厚生省社第169号厚生事務次官通知)は、「別に定める通知により行う外国人保護に要する費用等については国庫負担金に準ずるものとして取り扱う」ものとしている。
⑶ 昭和29年通知が発せられた当時、生活保護法による保護の決定及び実施等に係る地方公共団体が処理する事務は、機関委任事務とされていたが、平成11年制定の「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」による地方自治法の改正により、機関委任事務が廃止されたことに伴い、生活保護法による保護の決定及び実施等に係る地方公共団体が処理する事務は、第1号法定受託事務(法律又はこれに基づく政令により都道府県、市町村又は特別区が処理することとされる事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るものであつて、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの)とされた(生活保護法84条の5、地方自治法2条9項1号)。
昭和29年通知を踏まえた行政措置による保護は、法律又はこれに基づく政令により都道府県等が処理することとされる事務に当たらないから、法定受託事務ではなく、自治事務と解される。そして、昭和29年通知、平成2年口頭説明及び平成21年事務連絡は、厚生労働大臣が、その担任する事務に関し、地方公共団体に対し、地方公共団体の事務の運営その他の事項について適切と認める技術的な助言又は勧告を行うものと解され(地方自治法245条の4第1項)、地方公共団体としては、これらを尊重すべきではあっても、これらに従う義務を負うものとは解されない(同法247条3項参照)。そうすると、外国人に対する行政措置による保護は、地方公共団体の裁量により当事者との契約に基づいて行うものと解され、それが昭和29年通知等に沿うものである場合には、これに要する費用等について、生活保護法による国庫負担金に準ずる取扱いがされるものと解される。
最高裁平成24年(行ヒ)第45号同26年7月18日第二小法廷判決・訟務月報61巻2号356頁(以下「平成26年判決」という。)が、「外国人は、行政庁の通達等に基づく行政措置により事実上の保護の対象となり得る」としたのは、以上のような意味に理解される。
3 憲法適合性についての判断の枠組み
⑴ 憲法第3章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、我が国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解される(最高裁昭和50年(行ツ)第120号同53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223頁)。 憲法25条1項は、国民が健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する旨を規定しており、これについては、同条2項による社会的立法及び社会的施設の創造拡充により、個々の国民の具体的・現実的な生活権が設定充実されてゆくものと解される(最高裁昭和51年(行ツ)第30号同57年7月7日大法廷判決・民集36巻7号1235頁(以下「昭和57年大法廷判決」という。)等)。そして、生活保護法は、憲法25条に規定する理念に基づき、生活に困窮する全ての国民について、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とし、全ての国民は、同法の定める要件を満たす限り、同法による保護を無差別平等に受けることができ、同法により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない旨を定めているから(1条~3条)、同法による保護を受けることができる権利は、憲法25条にいう「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を具体的権利として定めたものということができる(最高裁昭和39年(行ツ)第14号同42年5月24日大法廷判決・民集21巻5号1043頁等)。 そして、憲法25条にいう上記権利は、人間の生存と尊厳という最も重要かつ普遍的な価値を基礎としており、その価値は国籍によって左右されないというべきであるから、権利の性質上日本国民のみをその対象としているとはいえない。
他方で、上記権利について具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量に委ねられるものと解されるが(昭和57年大法廷判決等)、それを具体的権利として定めた生活保護法による保護の対象者を日本国民に限定し外国人を除外することの憲法適合性は、権利の内容を具体化する裁量の問題ではなく、既に具体化された権利の主体の要件に関し、日本国民と外国人を区別して、外国人の権利を否定することの合理性の問題である。 また、憲法14条1項は、法の下の平等を定めており、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものである(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁等)。
⑵ 1966年(昭和41年)に採択され、1979年(昭和54年)に我が国が批准した「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」(以下「社会権規約」という。)は、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」とともに、世界人権宣言を基礎とする国際約束として作成され採択されたものであるところ、9条において、締約国は、社会保険その他の社会保障についての全ての者の権利を認める旨を規定するとともに、2条1項において、締約国は、立法措置その他の全ての適当な方法により同規約において認められる権利の完全な実現を漸進的に達成するため、自国における利用可能な手段を最大限に用いることにより、個々に又は国際的な援助及び協力、特に、経済上及び技術上の援助及び協力を通じて、行動をとることを約束する旨を規定し、同条2項において、締約国は、同規約に規定する権利が人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位によるいかなる差別もなしに行使されることを保障することを約束する旨を規定する。
これらの規定をみると、社会保障についての権利の完全な実現は、各締約国の社会的・経済的な諸事情や財政状況等を踏まえ、立法措置その他の適当な方法により漸進的に達成されるものであるから、社会権規約9条が個人に対し即時に具体的権利を付与すべきことを定めるものとは解されないが、人間は基本的な権利及び自由を差別なく享有するとの原則(国際連合憲章、世界人権宣言参照)に照らし、締約国において、立法措置等により一定の権利が具体化されている場合には、当該権利がいかなる差別もなしに行使されることの保障を約束する同規約2条2項の義務については、それが漸進的に達成されるべきものとはいえない。同条が1項と2項を分けて異なる文言で規定されていることや、この点に関する立案の経緯に照らしても、同条2項の義務は、即時に効力を有するものと解するのが相当である(経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会(以下「社会権規約委員会」という。)の一般的意見第19(2007年(平成19年))の第40項及び一般的意見第20(2009年(平成21年))の第7項等参照)。また、同条3項が、開発途上にある国について、人権及び自国の経済の双方に十分な考慮を払い、同規約において認められる経済的権利をどの程度まで外国人に保障するかを決定することができる旨を規定していることに照らしても、同条2項が国籍による差別の禁止を含む趣旨であることは明らかである(上記一般的意見第20の第30項等参照)。
また、1951年(昭和26年)に採択され、1981年(昭和56年)に我が国が加入した「難民の地位に関する条約」(以下「難民条約」という。)は、締約国が、合法的にその領域内に滞在する難民に対し、公的扶助及び公的援助に関し、自国民に与える待遇と同一の待遇を与える旨、国の安全又は公の秩序を理由とする場合を除くほか、合法的にその領域内にいる難民を追放してはならない旨を規定する(23条、32条1項)。
これらの条約により、外国人に対する社会保障については、その国籍の属する国(以下「国籍国」という。)の責任に全て帰せられるものではなく、外国人は、合理的な根拠に基づく場合を除き、在留する国の社会の一員として、その国民と同等の取扱いを受けるという平等原則が規範として確立しているというべきであり、我が国は、これを誠実に遵守すべき立場にある(憲法98条2項)。
政府も、社会権規約及び難民条約の締結に当たり、国会において、社会権規約9条は社会保障について外国人を差別してはならないことを意味している旨、生活保護法は国籍を要件としているものの、実質的に内外人同じ取扱いで生活保護を実施しており、同規約及び難民条約の批准に全く支障がない旨等の説明をしている(昭和54年5月28日参議院外務委員会及び昭和56年5月27日衆議院法務委員会・外務委員会・社会労働委員会連合審査会における各政府委員の答弁等)。そして、昭和56年制定の「難民の地位に関する条約等への加入に伴う出入国管理令その他関係法律の整備に関する法律」(以下「難民条約整備法」という。)等により、国民年金法、児童手当法、国民健康保険法等の国籍要件(社会保障の給付に係る法令の定める要件のうちその適用の対象につき「国民」又は「日本国民」と定めるものをいう。以下同じ。)が撤廃されるとともに、外国人の退去強制事由から「貧困者、放浪者、身体障害者等で生活上国又は地方公共団体の負担になっているもの」(難民条約整備法による改正前の出入国管理令24条4号ホ)が削除された。
また、政府は、社会権規約16条及び17条に基づく第3回政府報告(2009年(平成21年))において、我が国においては、適法に滞在している外国人に対しては、内外人平等の原則に立って、日本人と同様の社会保障を適用している旨の報告をしている。
そして、外国人に対する生活保護に関しては、長年にわたり、昭和29年通知を踏まえた行政措置として、一定の外国人について日本国民と同等の保護が事実上実施されている。
⑶ 以上に鑑みると、本件規定が生活保護法による保護の対象者を日本国民に限定し外国人を除外することについて、それが憲法25条に違反するか否かの判断と憲法14条1項に違反するか否かの判断は、相互に密接に関連し、検討に当たって考慮すべき事項が共通するものということができるものであり、上記各条項との関係で本件規定の合憲性を肯定し得るためには、その除外が、外国人の在留資格その他の事情を踏まえ、合理的な根拠に基づくものであることを要するものと解される。
⑷ なお、最高裁昭和60年(行ツ)第92号平成元年3月2日第一小法廷判決・裁判集民事156号271頁は、社会保障上の施策において在留外国人をどのように処遇するかについて、国は、特別の条約の存しない限り、当該外国人の属する国との外交関係、変動する国際情勢、国内の政治・経済・社会的諸事情等に照らしながら、その政治的判断によりこれを決定することができ、その限られた財源の下で福祉的給付を行うに当たり、自国民を在留外国人より優先的に扱うことも許される旨等の判示をしている。この判示は、難民条約整備法により国民年金法の国籍要件を定める規定を削除する改正前の同法において、保険方式による年金給付の制度発足時(昭和34年11月1日)の経過的な救済措置として設けられた無拠出制の障害福祉年金の対象者について国籍要件が定められていたところ、同年金受給権の裁定請求を棄却した処分(昭和47年8月21日)の取消しを求める訴えに関し、上記国籍要件の規定が憲法25条に違反する旨の主張を排斥する理由中で述べられたものであり、本件規定の憲法適合性についての判断に及ぶものとはいえない。 また、上記判決は、社会権規約9条について、同規約2条1項を指摘するなどして、個人に対し即時に具体的権利を付与すべきことを定めたものではなく、国籍要件を直ちに排斥するものとはいえない旨等の判示をしているが、同判示は、同条2項及び3項を指摘しないまま、上記国民年金法の国籍要件の規定が憲法98条2項に違反する旨の主張を排斥する理由中で述べられたものであり、本件規定の憲法適合性についての判断に及ぶものとはいえない。 さらに、平成26年判決は、本件規定の「国民」に外国人が含まれない旨の判示をしているが、本件規定の憲法適合性についての判断を示していない。 社会権規約委員会は、我が国政府が社会権規約による義務について即時の効力がないと解釈し、裁判所も同規約の規定が国内的に適用できないとする判断をしていることに関し、累次の懸念を表明している(社会権規約16条及び17条に基づく
第2回及び第3回政府報告に関する社会権規約委員会の総括所見(2001年(平成13年)9月24日及び2013年(平成25年)5月17日)。
4 本件規定の憲法適合性
⑴ 外国人は、一般に、国籍国において公的扶助等の保護を受けることができるが、その者が国籍国の外にいる場合、その保護には事実上の限界がある上、難民その他国籍国に帰国してその保護を受けることが困難な特別の事情を有する者もいる。
⑵ 難民は、人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることができない者又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者等をいい(出入国管理法2条3号、難民条約1条A⑵等)、法務大臣は、本邦にある外国人からの申請により、その者が難民である旨の認定を行うことができる(同法61条の2第1項)。そして、法務大臣は、難民の認定をする場合、同法別表第1又は別表第2の在留資格をもって本邦に在留する者等を除き、原則として、その者に定住者の在留資格の取得を許可するが、その在留を特別に許可して在留資格等を決定する場合もある(同法61条の2の2第1項、50条1項4号、2項)。このように、難民の認定を受けている外国人の在留資格は、定住者に限られるわけではない。
難民は、国籍国において生命又は自由が脅威にさらされている者であって、国籍国に帰国してその保護を受けることが困難な特別の事情を有するものであるから、人間は基本的な権利及び自由を差別なく享有するとの原則に基づき、国際的な協調の下に、その権利及び自由が保障されなければならない(難民条約前文参照)。
最低限度の生活を営む権利は、人間の生存と尊厳という最も重要かつ普遍的な価値を基礎とするものであり、社会権規約及び難民条約の規定をも踏まえると、難民の認定を受けている外国人は、その在留資格に関わらず、本邦において困窮のため最低限度の生活を維持することができない場合、その困窮の程度に応じ必要な保護を受けることについて、日本国民と異なる法律上の取扱いをすべき合理的な根拠はない。
なお、難民の認定を受けている外国人は、昭和29年通知を踏まえた行政措置による保護の対象となるが、この保護は、法律に基づくものではなく、地方公共団体の裁量により当事者との契約に基づいて行うものであるから、その保護が同通知に従って実施されないときも、行政不服審査法に基づく不服申立て等によりその是正を求めることはできない。
⑶ 補完的保護対象者は、難民以外の者であって、難民の要件のうち迫害を受けるおそれがある理由が所定の理由であること以外の要件を満たすものをいい(出入国管理法2条3号の2、難民条約1条A⑵等)、法務大臣は、本邦にある外国人からの申請により、その者が補完的保護対象者である旨の認定を行うことができる(同法61条の2第2項、3項)。そして、法務大臣は、補完的保護対象者の認定をする場合、同法別表第1又は別表第2の在留資格をもって本邦に在留する者等を除き、原則として、その者に定住者の在留資格の取得を許可するが、その在留を特別に許可して在留資格等を決定する場合もある(同法61条の2の2第1項、50条1項4号、2項)。このように、補完的保護対象者の認定を受けている外国人の在留資格は、定住者に限られるわけではない。
補完的保護対象者は、難民と同様に、国籍国において生命又は自由が脅威にさらされている者であって、国籍国に帰国してその保護を受けることが困難な特別の事情を有するものであるから、補完的保護対象者の認定を受けている外国人は、その在留資格に関わらず、本邦において困窮のため最低限度の生活を維持することができない場合、その困窮の程度に応じ必要な保護を受けることについて、日本国民と異なる法律上の取扱いをすべき合理的な根拠はない。
なお、昭和29年通知等を踏まえると、補完的保護対象者の認定を受けている外国人は、定住者の在留資格を有する場合は、行政措置による保護の対象となるが、出入国管理法別表第1の在留資格を有する場合は、直ちにその保護の対象者となるものではない。また、定住者の在留資格を有する場合において、その保護が同通知に従って実施されないときも、行政不服審査法に基づく不服申立て等によりその是正を求めることはできない。
⑷ 特定活動の在留資格に関し、法務大臣が個々の外国人について特に指定する活動については、上陸のための条件として法務大臣があらかじめ告示(出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の規定に基づき同法別表第1の5の表の下欄に掲げる活動を定める件(平成2年法務省告示第131号))をもって定めるもののほか、本邦に在留する間に疾病に罹患し又は傷害を負った場合等において、「本邦の医療機関において医療を受けることを必要とする特別の事情を有する者が行う疾病(又は傷害)のため療養する活動及び日常的な活動」(以下「療養活動」という。)の指定がされる場合がある。
また、法務大臣は、出入国管理法50条1項に基づき在留特別許可をするか否かの判断に当たっては、当該外国人について、人道上の配慮の必要性を含む諸事情を考慮するものとされており(同条5項)、人道上の配慮の必要性に関し特に考慮すべき事情には、当該外国人が難病等により本邦の医療機関において治療を受ける必要があること等の事情が含まれるものと解されるところ(出入国在留管理庁「在留特別許可に係るガイドライン」(令和6年3月改定)参照)、在留特別許可をする場合、療養活動の指定に係る特定活動の在留資格と決定する場合がある。
このように、療養活動の指定に係る特定活動の在留資格をもって本邦に在留する外国人(以下「療養活動外国人」という。)は、本邦の医療機関において医療を受ける必要があり、国籍国に帰国してその保護を受けることが困難な特別の事情を有するものであるから、本邦において困窮のため最低限度の生活を維持することができない場合において、その困窮の程度に応じた必要な保護を否定することは、その生存に危険を生じさせるものであって、著しく人道に反し、個人の尊厳をないがしろにするものというべきである。療養活動外国人は、上記保護を受けることについて、難民の認定又は補完的保護対象者の認定を受けている外国人と同様に、日本国民と異なる法律上の取扱いをすべき合理的な根拠を見いだし難い。
なお、昭和29年通知等を踏まえると、療養活動外国人は、行政措置による保護の対象とならない。
⑸ア 平成2年口頭説明は、昭和29年通知を踏まえた行政措置による保護の対象者に関し、別表第1在留資格者は、国又は地方公共団体の負担になるおそれがないことを条件に在留が認められた者であること、本邦における活動が制限されていて、自力で生活することが限定的にしか認められておらず、原則的に生活保護制度が前提にしている者であるとは考えにくいこと等の指摘をしている。
その一方で、平成2年口頭説明は、難民について、定住者の資格を有しない場合もあり得るが、本国の庇護を受けられないことを理由に、生活保護の対象になり得るものとしている上、特定活動の在留資格について、個別的に判断すべき事情があり得るから、厚生省に協議する必要がある旨の説明をしているから、昭和29年通知を踏まえた行政措置による保護においても、国籍国に帰国してその保護を受けることが困難な特別の事情を有する者については、その在留資格に関わらず、日本国民と同様の取扱いをすることを否定するものではないと解される。
イ そもそも、生活上国又は地方公共団体の負担になるおそれのある者に該当しないことは、全ての外国人に共通する上陸のための条件であるが(出入国管理法5条1項3号、7条1項4号、9条1項等)、本邦に在留する間に、疾病その他の理由から生活に困窮する場合があり得ることは、別表第1在留資格者も別表第2在留資格者も異なるものではない。
これを前提とした上で、難民又は補完的保護対象者は、国籍国において生命又は自由が脅威にさらされている者であって、国籍国に帰国してその保護を受けることが困難なものであり、その認定は、生活上公共の負担となっていないことやそのおそれがないことを要件としていない。
また、法務大臣は、在留資格の変更又は在留期間の更新の申請についてこれを適当と認めるに足りる相当の理由があるか否かを判断する場合において(同法20条3項本文、21条3項)、当該申請人が日常生活において公共の負担となっていないこと等を一つの事情として考慮することができるが、在留を認めるべき人道上の理由が認められる外国人については、生活上公共の負担になっている場合でも、その理由を十分勘案して判断すべきものと解される(出入国在留管理庁「在留資格の変更、在留期間の更新許可のガイドライン」(令和8年1月改正)参照)。療養活動外国人は、国籍国に帰国してその保護を受けることが困難なものであり、本邦において困窮のため最低限度の生活を維持することができない場合、必要な保護を受けることができなければ、その生存に対する危険を免れることが困難である。
このように、国籍国に帰国してその保護を受けることが困難な特別の事情を有する者については、在留資格や在留期間の取扱いにおける公共の負担の考慮の点で、人道上特段の配慮がされるべきものということができる。
ウ 別表第1在留資格者については、各在留資格に応じ、収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動(以下「就労活動」という。)を制限され又は禁止されるが、許可を受けて、各在留資格に係る活動の遂行を阻害しない範囲内で当該活動に属しない就労活動を行うことができる(出入国管理法19条1項、2項)。 いずれにせよ、就労活動の制限等に関わらず、疾病等のため稼働できない状態にあり、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを活用してもなお最低限度の生活を維持することができない場合、補足性の要件(生活保護法4条1項)を満たすことは明らかである。また、就労活動が禁止されているため稼働できないとしても、それをもって直ちに上記要件を欠くものとはいえず、最低限度の生活の保障を否定すべき理由はない。難民の認定を受けている外国人は、別表第1在留資格者である場合にも、昭和29年通知を踏まえた行政措置による保護の対象とされるが、これも、就労活動の制限等が上記要件を満たす妨げとならないことを前提としている。
また、生活保護法は、憲法25条に規定する理念に基づき、国が生活に困窮する全ての国民に対し、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とするが(1条)、自立の助長といっても、それは、就労による経済的自立のための支援のみならず、被保護者の能力やその抱える問題等に応じ、身体や精神の健康を回復・維持し、自分で自分の健康・生活管理を行うなど日常生活において自立した生活を送るための支援(日常生活自立支援)や、社会的なつながりを回復・維持するなど社会生活における自立の支援(社会生活自立支援)を含むものと解される(平成16年12月15日付け社会保障審議会福祉部会生活保護制度の在り方に関する専門委員会報告書参照)。療養活動外国人についても、健康を回復・維持し自分で自分の健康・生活管理を行うための支援など、日常生活自立支援及び社会生活自立支援の対象となり得ることは明らかであり、就労活動の制限等がこれを否定する理由となるものではない。
エ 以上によれば、平成2年口頭説明におけるアの指摘は、療養活動外国人について、日本国民と異なる法律上の取扱いをすべき合理的な根拠となるものとは解されない。
⑹ 以上のとおりであり、本件規定において、生活保護法による保護の対象者を日本国民に限定し、少なくとも、難民の認定又は補完的保護対象者の認定を受けている外国人及び療養活動外国人を除外していることは、外国人の在留資格その他の事情を踏まえ、合理的な根拠に基づくものとはいえない。
したがって、本件規定のうち、少なくとも、難民の認定又は補完的保護対象者の認定を受けている外国人及び療養活動外国人を除外する部分は、憲法25条及び14条1項に違反し無効というべきである。
なお、「少なくとも」というのは、本件についての判断に必要な範囲で述べる趣旨であり、その他の外国人を除外することが合憲であることを意味しないことはいうまでもない。
5 本件規定に関する違憲を前提とする解釈 憲法25条にいう「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」は、権利の性質上日本国民のみをその対象としているとはいえないところ、生活保護法による保護を受けることができる権利は、同条にいう権利を具体的権利として定めたものであり、本件規定は、上記具体的権利の主体の要件を日本国民に限定し外国人を除外している。本件規定のうち、上記主体から除外する部分が憲法25条等に違反し無効となる外国人は、同条にいう権利の主体となるべきものであり、上記具体的権利の主体の要件における過剰な限定が無効となることによって上記要件を満たすものと解されるから、生活保護法による保護を受けることができる権利を有するというべきである。
また、国会は、社会権規約及び難民条約の締結に当たり、社会保障に関する権利については国籍による差別をしてはならないという認識の下に、国民年金法等の国籍要件を撤廃する一方で、生活保護については、外国人が行政措置による保護によって日本国民と同等の給付が受けられることを前提にして、生活保護法による保護の対象から外国人を除外する本件規定を維持したものである。そうすると、およそ外国人に対する生活保護を地方公共団体の裁量に委ねていることは、日本国民と同等の給付を確保するという国会の意思に沿うものとはいい難い。むしろ、本件規定のうち、日本国民と同等の給付を受けられない外国人を除外する部分が憲法25条等に違反し無効と判断される場合において、当該外国人が同法による保護を受けることができる権利を有すると解することは、上記国会の意思に沿うものというべきである。
以上のような解釈は、憲法25条並びにこれを具体化する生活保護法の趣旨及び目的に沿うものであり、裁判所が、法律にない新たな権利を創設するというものではなく、国会の立法権を侵害するということもできない。
6 結論等
⑴ 以上のとおり、上告人を含む療養活動外国人は、生活保護法による保護の対象に含まれるものであり、これと異なる見解の下に、同法に基づく保護の申請に係る却下決定の取消請求等を棄却した原審の判断は、憲法25条及び14条1項並びに生活保護法の解釈を誤ったものである。論旨は、この趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れず、更に審理を尽くさせるため、本件を原裁判所に差し戻すのが相当である。
⑵ いうまでもなく、国会は、国権の最高機関であって国の唯一の立法機関であり(憲法41条)、憲法25条を現実の立法として具体化し、法律に基づく行政を実現する責務を負う。
70年以上の長きにわたり、生活に困窮する一定の外国人について、日本国民と同等の保護が事実上実施されていることは、憲法25条の基礎にある人間の生存と尊厳に関わる重い現実である。国会が、我が国に定着して生活する者等を含め、およそ外国人に対する生活保護について、法律上の制度を定めることを怠り、これを地方公共団体の裁量に委ねていることは、国として、外国人の生存と尊厳をおろそかにするものといわざるを得ない。
外国人に対する生活保護を法律上の権利ではなく恩恵的な給付にとどめることは、現に保護を必要とする外国人を不安定な地位に置くだけではなく、我が国社会を共に構成する外国人一般に対する差別や偏見を助長するおそれがあるという点でも、個人の尊厳及び平等という憲法の基本的な価値を損なうものである。
基本的人権の保障については、最高法規である憲法の下に、関連する条約を誠実に遵守するとともに、適切な法秩序が形成されなければならない。 ( 裁判長裁判官 三浦守 裁判官 岡村和美 裁判官 尾島明 裁判官 高須順一)