判決全文
令和6年(受)第2399号 労働契約法20条違反による損害賠償請求事件令和8年2月13日 第二小法廷判決 主文
1 原判決中、一時金に係る損害賠償請求に関する上告人敗訴部分を破棄する。
2 前項の部分につき、被上告人X 39 を除く被上告人らの控訴を棄却する。
3 上告人の扶養手当及び特別休暇に係る損害賠償請求に関する上告を却下する。
4 上告人のその余の上告を棄却する。
5 訴訟の総費用は、これを9分し、その1を上告人の負担とし、その余を被上告人らの負担とする。
理由 上告代理人楠井嘉行ほかの上告受理申立て理由第1の3について
1 本件は、上告人に雇用されていた被上告人ら(ただし、被上告人X 39を除く。以下同じ。)が、上告人が労働契約に基づく一時金を支払わなかったことにより損害を被ったなどと主張して、上告人に対し、不法行為に基づき、一時金相当額及び弁護士費用相当額の損害賠償を求めるなどする事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
⑴ 上告人が雇用する労働者は、従前、期間の定めのない労働契約を締結した正社員と期間の定めのある労働契約を締結した準社員とに区分され、正社員には正社員就業規則が、準社員には準社員就業規則が適用されていた。
⑵ 上告人は、被上告人らを新たに設ける区分である有期雇用契約社員として雇用することとし、平成22年1月1日から平成23年9月1日までの間に、被上告人らとの間で契約期間を6か月とする労働契約を締結した。上記労働契約において、被上告人らの労働条件は有期雇用契約社員就業規則による旨が定められていたが、上告人が同就業規則を作成したのは同年11月3日であった。
⑶ 準社員就業規則は準社員に対する一時金に関する定めを置いていたのに対し、有期雇用契約社員就業規則は有期雇用契約社員に対する一時金に関する定めを置いていなかった。
3 原審は、上記事実関係の下において、被上告人らには平成23年11月2日までは準社員就業規則が適用されるとした上で、要旨次のとおり判断して、被上告人らの一時金に係る損害賠償請求を一部認容した。
上告人は、同日までは被上告人らを準社員と扱うべきであったのに、これに反して一時金を支給しなかったから、被上告人らに対し、不法行為に基づき、一時金相当額及び弁護士費用相当額の損害賠償義務を負う。
4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
被上告人らの一時金に係る損害賠償請求は、被上告人らに準社員就業規則が適用され、一時金の支払を求める具体的請求権(労働契約に基づく賃金債権)を有していたことを前提とした上で、上告人がその支払債務の履行を怠ったことが不法行為に該当するとして、一時金相当額等の損害賠償を求めるものである。
しかしながら、被上告人らが上記賃金債権を有するのであれば、上告人においてその支払債務を履行しなかったとしても、契約に基づく金銭債務の不履行となるにすぎず、当該不履行自体は債権者の不法行為法上の権利利益を侵害するものではないから、一時金が支払われなかったからといって不法行為が成立するものではない。本件において、被上告人らは、専ら一時金が支払われなかったことをもって不法行為に該当すると主張するものであり、契約責任(債務不履行)のほかに、不法行為責任が問題になる余地はない。
したがって、被上告人らは、上告人に対し、上告人による一時金の支払債務の不履行を理由として、一時金相当額を不法行為に基づく損害賠償として請求することはできないというべきである。
5 以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決中、被上告人らの一時金に係る損害賠償請求に関する上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、上記請求は理由がなく、これを棄却した第1審判決は結論において正当であるから、上記部分につき被上告人らの控訴を棄却すべきである。
なお、上告人の扶養手当及び特別休暇に係る損害賠償請求に関する上告については、上告人が上告受理申立ての理由を記載した書面を提出しないから、これを却下することとし、その余の上告については、上告受理申立ての理由が上告受理の決定において排除されたので、棄却することとする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 ( 裁判長裁判官 岡村和美 裁判官 三浦守 裁判官 尾島明 裁判官 高須順一)