判決全文
令和8年(し)第770号 保釈許可の裁判に対する準抗告の決定に対する特別抗告事件令和8年8月31日 第二小法廷決定 主文 原決定を取り消す。
本件準抗告を棄却する。
理由
1 本件抗告の趣意は、憲法違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反の主張であって、刑訴法433条の抗告理由に当たらない。
2 所論に鑑み、職権で判断する。
⑴ 記録によれば、以下の経緯が認められる。
ア 被告人は、令和8年4月9日(以下の月日は、同年のものをいう。)、「共犯者と共謀の上、1月19日、岐阜県内の店舗において、ぬいぐるみ10点(販売価格合計3万4210円)を窃取した」という本件公訴事実について、岐阜地方裁判所に起訴された。
イ 被告人は、本件起訴に先立つ2月20日、本件公訴事実と同一の共犯者と共謀の上、愛知県内の店舗で①1月22日及び②2月1日に行った同種窃盗2件(以下「別件」という。)について、名古屋地方裁判所一宮支部に起訴された。
ウ 同支部において、4月23日、別件の第1回公判期日が開かれ、被告人は、別件の事実をいずれも認めて検察官請求証拠について全て同意し、証拠調べが行われ、次回の公判期日が6月17日と指定された。その後、本件は別件に併合されたが、同支部は、他府県での余罪捜査を理由とする検察官からの公判期日変更請求を受け、同月9日、上記公判期日を取り消した。その後余罪捜査が行われたが、被告人に対する追起訴はなく、同支部は、7月29日、公判期日を9月16日と指定した。
エ 弁護人は、7月30日、別件のうち勾留中であった②の事件について保釈を請求したが、同支部が保釈請求を却下したことから、抗告を申し立てた。これに対し、名古屋高等裁判所は、8月5日、刑訴法89条3号、4号及び6号に該当するが、裁量保釈が相当であるとして、上記保釈請求却下決定を取り消し、保証金額を150万円と定めるなどして被告人の保釈を許可する決定(以下「別件抗告審決定」という。)をした。
オ 弁護人は、8月6日、本件について、事実関係を争わないことを明示して保釈を請求した。
原々審は、本件について、保証金額を150万円と定め、被告人の実家を制限住居とし、共犯者との接触を禁止するなどの条件を付して、被告人の保釈を許可したことから、検察官が準抗告を申し立てた。
これに対し、原審は、保釈を許可した原々裁判を取り消して、保釈請求を却下した。
⑵ そこで検討すると、原々裁判は、被告人が共犯者と共に野宿生活をし、共犯者と換金目的で万引き行為を繰り返すなどしていた状況等から、刑訴法89条3号、4号及び6号に該当すると判断したものと解される。その上で、原々裁判は、別件抗告審決定の判断を踏まえ、本件の審理状況をも考慮し、㋐既に認否等が明らかにされた別件と一連のものとして行われた本件について、捜査段階で事実を認めている被告人が実効性のある罪証隠滅に及ぶ現実的可能性は高くないこと、㋑被告人に前科がなく、保証金を準備した父が身元を引き受け、被告人もその監督に服する旨誓約し、帰住先が確保されているため、被告人が逃亡するおそれも高くないことから、上記条件を付して、裁量により保釈を許可するのが相当と判断したものと理解される。
これに対し、原決定は、刑訴法89条3号、4号及び6号に該当することを前提に、本件の審理が行われる前の段階においては、被告人が共犯者と通謀して罪体や重要な情状事実について罪証を隠滅するおそれは否定できず、本件は別件と異なり公判での認否が未了であるから、別件と同列に論ずるのは相当でないとし、裁量保釈を相当とする事情が見当たらないと説示して、原々裁判に裁量の逸脱があるとした。
しかし、原決定は、本件が第1回公判期日前であるという形式的な理由を示すのみで、本件について被告人が実効的な罪証隠滅に及ぶおそれの程度が高いとみるべき実質的な理由を示していない。また、原決定は、保証金や上記条件によって担保できないほどに逃亡のおそれの程度が高いとみるべき理由も示していない。そうすると、原決定は、裁量保釈を許可した原々審の上記判断が不合理であることを具体的に示したものとはいえない。したがって、原々裁判を、裁量の逸脱があるとして取り消し、保釈請求を却下した原決定には、刑訴法90条、426条の解釈適用を誤った違法があり、これが決定に影響を及ぼし、原決定を取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。
3 よって、刑訴法411条1号を準用して原決定を取り消し、同法434条、426条2項により更に裁判をすると、本件について保釈を許可した原々審の裁判に誤りはないから、本件準抗告は、同法432条、426条1項により棄却を免れず、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。 ( 裁判長裁判官 高須順一 裁判官 三浦守 裁判官 岡村和美 裁判官 尾島明)