判決全文
令和8年(ク)第407号 宗教法人解散命令申立事件令和8年6月22日 第三小法廷決定 主文 本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
第1 抗告代理人福本修也ほかの抗告理由第4について
1 所論は、宗教法人である抗告人について宗教法人法(以下「法」という。)81条1項1号に該当する事由があるとして抗告人を解散するとした原々決定(以下「本件解散命令」という。)及びこれに対する即時抗告を棄却した原決定は、抗告人及びその信者らの宗教活動の自由並びに宗教的結社の自由を侵害し、憲法20条1項、21条1項に違反する旨をいうものである。
2 法81条1項1号が宗教法人の解散命令の事由として「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと」と規定している趣旨は、同号所定の事由がある場合には、宗教団体に法律上の能力を与えたままにしておくことが不適切となるところから、司法手続によって宗教法人を強制的に解散し、その法人格を失わしめることが可能となるようにすることにあると解されるのであり(最高裁平成8年(ク)第8号同年1月30日第一小法廷決定・民集50巻1号199頁参照)、その趣旨に照らし、民法709条の不法行為を構成する行為は、法81条1項1号にいう「法令に違反」する行為に当たると解するのが相当である(最高裁令和6年(許)第31号同7年3月3日第一小法廷決定・民集79巻3号997頁参照)。
そして、解散命令は、宗教法人の法人格を失わせる効力を有するにとどまり、信者の宗教上の行為を禁止したり制限したりする法的効果を一切伴わないものであるけれども、宗教法人の解散命令が確定したときはその清算手続が行われ(法49条3項、49条の2)、宗教法人に帰属する財産で礼拝施設その他の宗教上の行為の用に供していたものも処分されることになり(法50条参照)、これらの財産を用いて信者らが行っていた宗教上の行為を継続するのに何らかの支障を生ずることがあり得ることから、憲法の保障する精神的自由の一つとしての信教の自由の重要性に思いを致し、憲法がそのような規制を許容するものであるかどうかを慎重に吟味しなければならないというべきである(前掲平成8年第一小法廷決定参照)。
3 このような観点から本件解散命令について見ると、原審の適法に確定した事実関係等によれば、抗告人の信者らは、昭和48年から令和4年までの長期間にわたり、不法行為に該当する献金の勧誘行為を継続的に行うなどし、多数の者に極めて多額に上る財産的又は精神的損害を与えたものであり、上記不法行為は、抗告人が、日本の信者らが無理をしてでも世界の国々のために経済的援助をすべきとの抗告人の教義の創始者等の方針を踏まえ、信者らに対し、社会通念上相当な範囲を逸脱しない方法、態様による勧誘では達成できないような数値目標を定めて献金の勧誘を求めるなど、抗告人による組織的な関与の下に行われたものであるというのであるから、抗告人が、法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたことは明らかである。
そして、原審の適法に確定した事実関係等によれば、抗告人は、信者らによる不相当な献金の勧誘行為を防止するための実効性のある措置をとっておらず、今後も、信者らに対し、社会通念上相当な範囲を逸脱しない方法、態様による勧誘では達成できないような数値目標を定めて献金の勧誘を行うよう求めるおそれがあり、その場合、信者らは、上記勧誘行為を行う可能性が高いというのであるから、抗告人の上記のような行為に対処するには、抗告人を解散し、その法人格を失わせることが必要かつ適切であり、法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律に基づく措置を含め、他に実効性のある手段があるということはできない。他方、本件解散命令によって宗教団体である世界平和統一家庭連合やその信者らが行う宗教上の行為に何らかの支障を生ずることが避けられないとしても、その支障は、解散命令に伴う間接的で事実上のものであるにとどまる(前掲平成8年第一小法廷決定参照)。また、解散命令は宗教法人の法人格を失わせる効力を有するにとどまり、法人格を有しない宗教団体として存続することは妨げられないのであるから、本件解散命令が宗教的結社の自由に及ぼす影響についても、同様に間接的で事実上のものであるということができる。したがって、本件解散命令は、宗教団体である世界平和統一家庭連合やその信者らの精神的、宗教的側面に及ぼす影響を考慮しても、抗告人の行為に対処するために必要でやむを得ないものであるということができる。
以上によれば、本件解散命令及びこれに対する即時抗告を棄却した原決定は、憲法20条1項、21条1項に違反するものではない。このことは、当裁判所の判例(最高裁昭和36年(あ)第485号同38年5月15日大法廷判決・刑集17巻4号302頁)の趣旨に徴して明らかである。論旨は採用することができない。
第2 抗告代理人福本修也ほかの抗告理由第5について所論は、宗教法人の解散命令に対する抗告審の手続は、口頭弁論すなわち公開法廷における対審によるべきものであり、口頭弁論を経ないでされた原決定は、憲法32条、82条に違反する旨をいうものである。
法81条1項に基づく宗教法人の解散命令は、宗教法人について同項各号に該当する事由がある場合に、公益の確保の観点から、裁判所が所轄庁等の請求により又は職権で当該宗教法人を強制的に解散するものであり、当事者の主張する実体的権利義務の存否を確定することを目的とするものではないから、その性質は固有の司法権の作用に属しない非訟事件についての裁判であるということができ、純然たる訴訟事件についての裁判として口頭弁論を経ることを要するものということはできない。そして、解散命令に対する抗告審の裁判も、このような解散命令に対する不服の申立てについての裁判にすぎず、その手続は司法機関により行われ解散命令の手続と相互に関連する一連の手続であるから、同様に口頭弁論を経ることを要するものではないというべきである。
したがって、原決定が口頭弁論を経ないでされたことをもって憲法32条、82条に違反するということはできない。このことは、当裁判所の判例(最高裁昭和37年(ク)第64号同41年12月27日大法廷決定・民集20巻10号2279頁、最高裁昭和41年(ク)第402号同45年6月24日大法廷決定・民集24巻6号610頁)の趣旨に徴して明らかである。論旨は採用することができない。
第3 その余の抗告理由について 論旨は、違憲をいうが、その実質は単なる法令違反を主張するものであって、特別抗告の事由に該当しない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。 ( 裁判長裁判官 渡辺惠理子 裁判官 林道晴 裁判官 石兼公博 裁判官 平木正洋)