判決全文
令和6年(行ヒ)第281号 公有水面埋立撤回処分に対し国土交通大臣がなした裁決の取消請求事件令和8年7月13日 第一小法廷判決
(裁決行政庁の表示)
上告人 国裁決行政庁 国土交通大臣 A 主文
1 原判決中被上告人X3 に関する部分を破棄し、同部分につき同被上告人の控訴を棄却する。
2 上告人の被上告人X 1 、同X 2 及び同X 4 に対する上告を棄却する。
3 第1項に関する控訴費用及び上告費用は被上告人X 3の負担とし、前項に関する上告費用は上告人の負担とする。
理由 上告代理人古宮久枝ほかの上告受理申立て理由について
1 沖縄防衛局は、アメリカ合衆国軍隊(以下「米軍」という。)が使用する沖縄県宜野湾市所在の普天間飛行場の代替施設(以下「本件施設」という。)を同県名護市辺野古沿岸域に設置するための公有水面の埋立て(以下「本件埋立て」という。)につき、同県知事から公有水面埋立法(以下「法」という。)42条1項の承認(以下「本件埋立承認」という。)を受けていたが、事後に判明した事情等を理由として本件埋立承認が取り消されたことから(以下、この取消しを「本件承認取消し」という。)、これを不服として行政不服審査法に基づく審査請求をしたところ、国土交通大臣は、本件承認取消しを取り消す裁決(以下「本件裁決」という。)をした。本件は、本件埋立てに係る埋立区域(以下「本件埋立区域」という。)の周辺に居住する被上告人らが、上告人を相手に、本件裁決の取消しを求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
⑴ 沖縄防衛局は、名護市辺野古に所在するキャンプ・シュワブの施設敷地内の辺野古崎地区及びこれに隣接する水域に本件施設を設置するため、平成25年3月22日、沖縄県知事に対し、埋立地の用途を飛行場用地及び本件施設建設のための造成用地とする第1審判決別紙2記載の水域(本件埋立区域。合計約160ha)に係る公有水面の埋立て(本件埋立て)につき、法42条1項の承認(以下「埋立承認」という。)を求めて公有水面埋立承認願書を提出した(以下、この出願を「本件埋立出願」という。)。
本件施設は、Ⅴ字型に配置された2本の滑走路を中核とする飛行場であり、これらの滑走路の長さはいずれもオーバーラン(滑走路両端に各300m)を含めて1800mである。
⑵ 沖縄防衛局長は、本件埋立出願に先立ち、本件埋立ての事業及び本件施設の設置の事業につき、環境影響評価法(令和7年法律第73号による改正前のもの。 以下同じ。)及び沖縄県環境影響評価条例(平成12年沖縄県条例第77号。以下「本件条例」という。)に基づく環境影響評価書を作成し、平成23年12月及び平成24年1月、これを沖縄県知事に送付するとともに、同年12月、補正後の環境影響評価書(以下「本件補正評価書」という。)を同知事に送付した。
本件補正評価書は、本件埋立出願において、その添付書類の一つである「環境保全に関し講じる措置を記載した図書」(公有水面埋立法施行規則(以下「法施行規則」という。)3条8号。以下「環境保全図書」という。)として用いられている。
⑶ 沖縄県知事は、本件埋立出願につき、法4条1項各号の要件に適合すると判断して、平成25年12月27日、本件埋立承認をした。
⑷ 沖縄県副知事は、沖縄県知事の職務代理者(地方自治法152条1項)から同法153条1項に基づく委任を受け、平成30年8月31日、沖縄防衛局に対し、本件埋立承認後に判明した事情によれば本件埋立ては法4条1項1号及び2号の各要件に適合していないこと等を理由として、本件埋立承認を取り消した(本件承認取消し)。
⑸ 沖縄防衛局は、本件承認取消しに不服があるとして、平成30年10月17日、行政不服審査法2条、地方自治法255条の2第1項1号に基づき、国土交通大臣に対して審査請求をした。同大臣は、上記審査請求は理由があるとして、平成31年4月5日付けで、本件承認取消しを取り消す裁決(本件裁決)をした。
⑹ア 航空機騒音は、騒音のピークレベルが他の発生源による騒音と比較してはるかに高く、しかも広範囲に及ぶこと、エンジンの影響により特定の周波数に偏った特異な音質を有すること、継続時間が長くとも二十数秒程度にすぎないこと等の特性がある。国際民間航空機関は、昭和46年に、こうした特性に配慮した航空機騒音の評価指標としてWECPNL(加重等価継続感覚騒音レベル。以下、WECPNLの値を「W値」という。)を採択し、我が国においても、次のとおり、これに準じた評価指標が用いられてきた。
環境基本法16条1項は、政府は、大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について、それぞれ、人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準(以下「環境基準」という。)を定めるものとする旨を規定しているところ、同項に基づく「航空機騒音に係る環境基準について」(昭和48年環境庁告示第154号。平成19年環境省告示第114号による改正前のもの。以下「航空機騒音環境基準告示」という。)は、航空機騒音に係る環境基準を、所定の方法により測定・評価したW値により定め、専ら住居の用に供される地域についてはW値70以下、それ以外の地域であって通常の生活を保全する必要がある地域についてはW値75以下としていた。
イ 本件補正評価書には、本件施設の供用後に生ずる航空機騒音の予測結果を表示した図(以下「本件騒音予測図」という。)が含まれている。本件騒音予測図は、アメリカ合衆国側からの提供データや普天間飛行場における騒音調査の結果等に基づいて予測した飛行経路や飛行回数を基に、飛行経路のばらつきによる影響も考慮した上で予測したW値が70、75、80及び85である地点をそれぞれ結んだ曲線(このうち、上記W値が70である地点を結んだ曲線を以下「70W線」という。)を地図上に表示したものである。
ウ 被上告人らは、それぞれ、肩書住所地に居住している。これらの居住地は、いずれも70W線の外側(本件騒音予測図において予測されるW値が70よりも小さいとされた地域)に位置し、被上告人X 1 、同X 2 及び同X 4 (以下、併せて「被上告人X1 ら」という。)の各居住地と70W線との距離は90.1m~19
4.0mであるが、被上告人X3の居住地と70W線との距離は1㎞余りである。
3 原審は、要旨次のとおり判断し、被上告人らはいずれも本件裁決の取消しを求める原告適格を有するとして、これを否定して被上告人らの訴えをいずれも却下した第1審判決を取り消して本件を第1審に差し戻した。
⑴ 公有水面の埋立て及び埋立地の用途に係る事業の事業地周辺に居住する住民のうち、当該事業が実施されることにより騒音、振動等によって健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は、当該事業に係る埋立承認(これを撤回した処分を取り消す裁決を含む。)の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する。70W線の外側ではあるが同線からおおむね200m以内の地域に居住している被上告人X1 らは、上記の著しい被害を直接的に受けるおそれのある者に当たるから、本件裁決の取消しを求める原告適格を有する。
⑵ 本件埋立承認に係る法の規定に加え、航空法の趣旨及び目的をも参酌すると、本件埋立ての事業地周辺に居住する住民のうち、当該事業が実施されることにより航空機の衝突や墜落事故といった航空機の航行に起因する障害によって健康(ひいては生命、身体の安全)又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は、当該事業に係る埋立承認(これを撤回した処分を取り消す裁決を含む。)の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する。本件埋立ての事業地が所在する地域では、本件埋立てに伴い、アメリカ合衆国国防総省の統一施設基準に基づく周辺高さ制限(米軍の航空機の安全な航行を目的として設定される建築物の高さに関する制限)が設定されることが予定されているところ、同制限を0.97m下回る高さの建物に居住している被上告人X 3は、上記の著しい被害を直接的に受けるおそれのある者に当たるから、本件裁決の取消しを求める原告適格を有する。
4 しかしながら、原審の上記の判断のうち、被上告人X 1らの訴えに関する部分は結論において是認することができるが、被上告人X 3の訴えに関する部分は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
⑴ 行政事件訴訟法9条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条1項にいう当該裁決の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該裁決により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該裁決の根拠となる法令の規定が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり、当該裁決によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該裁決の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである(最高裁平成16年(行ヒ)第114号同17年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁参照)。
そして、処分に対する不服申立てについてされた裁決につき、その相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、当該裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに上記処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し、この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当該裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(行政事件訴訟法9条2項参照)。
⑵ 上記⑴の見地から被上告人らが本件裁決の取消しを求める原告適格を有するか否かを判断するに当たり、まず、本件裁決の根拠となる法令について検討する。
ア 本件裁決は、行政不服審査法2条に基づく審査請求(以下、単に「審査請求」という。)についてされたものであるところ、審査請求においては、不服の対象とされた処分(以下「原処分」という。)に、その根拠となる法令に照らして違法又は不当があるかどうかという点が審理判断されるべきものである。そして、審査請求における審査の対象は、上記の点を判断するのに必要な事項全般に及び、審査庁は、審査請求人の主張していない違法又は不当についても審査の対象とすることができるものと解されるのであって(行政不服審査法33条、34条、35条1項、36条参照)、原処分の根拠となる法令は、審査請求人が主張しなかった違法又は不当に係るものについても、審査庁が審理判断したか否かにかかわらず、裁決の根拠となる法令に含まれるものというべきである。
したがって、本件承認取消しの根拠となる法令は、全て本件裁決の根拠となる法令にも含まれるものと解すべきである。
イ そこで、次に、本件承認取消しの根拠となる法令について検討すると、本件承認取消しは、本件埋立承認が適法有効にされたことを前提に、これを事後の事情を理由として取り消したものであると解される。法は、このような埋立承認の取消しについて直接明文の規定を置いていないが、埋立承認が適法有効にされた後においても、事情の変更によりその効果を存続させることが公益に適合しなくなった場合には、当該埋立承認をする権限を有する者は、その権限において、当該埋立承認を将来に向かって取り消すこと(以下、この取消しを「承認撤回」という。)ができるものと解される(最高裁昭和42年(行ツ)第99号同47年12月8日第二小法廷判決・裁判集民事107号319頁参照)。そして、法は、埋立承認について、4条1項各号においてその要件を定めてその権限の行使に制約を課すなどして、公有水面の埋立てに関わる諸利益の調整を図っているものということができ、埋立承認の効果を存続させることが公益に適合しなくなったか否かを判断するに当たっても、このような埋立承認の性質及び内容を含む諸事情が総合的に考慮されるべきであって、このことは、埋立承認に係る要件の一部が事後的に充足しなくなったことを主たる理由として承認撤回をする場合であっても異なるものではない。そうすると、埋立承認に係る要件の一部が事後的に充足しない状況が生じたことを主たる理由として承認撤回がされた場合であっても、当該一部以外の要件を定める法の規定を含め、埋立承認の根拠となる法令は全て承認撤回の根拠となる法令に当たるものというべきである。
以上によると、本件承認取消しは、本件埋立承認後に判明した事情によれば本件埋立てが法4条1項1号及び2号の各要件に適合していないこと等を理由とするものであるが、本件埋立承認の根拠となる法令は、同項1号及び2号以外の埋立承認に係る要件を定める規定を含め、全て本件承認取消しの根拠となる法令にも当たり、また、前記アにおいて説示したところに照らし、同時に本件裁決の根拠となる法令に当たることとなる。
⑶ 上記⑴、⑵を踏まえて、被上告人らが本件裁決の取消しを求める原告適格を有するか否かについて判断する。
ア(ア) 法は、都道府県知事は埋立承認の出願が4条1項各号に掲げる要件に適合すると認められる場合を除いては埋立承認をすることができないものとし(42条3項、4条1項柱書き)、同項3号は、上記要件の一つとして、埋立地の用途が環境保全に関する国又は地方公共団体の法律に基づく計画(以下「法定環境保全計画」という。)に違背しないことを掲げている。また、法は、埋立地の用途を埋立承認に係る願書の記載事項の一つとした上で(42条3項、2条2項3号)、上記願書には国土交通省令で定める図書を添付すべきものとし(42条3項、2条3項)、これを受けた法施行規則3条は、添付すべき図書として、埋立地の用途及び利用計画の概要を表示した図面(7号)や環境保全図書(8号)などを掲げているところ、この環境保全図書とは、埋立て及び埋立地の用途に関する環境影響評価に関する資料を含む環境保全措置を記載した図書をいうものと解される。これらの規定は、埋立承認の出願に当たって、埋立地の用途についても明らかにさせるとともに、環境保全図書を添付すべきものとすることにより、当該用途が法定環境保全計画に反しないものかどうかを、こうした図書を踏まえて審査することを予定しているものということができる。さらに、法は、都道府県知事は、埋立承認の出願があった場合には、遅滞なくその事件の要領を告示するとともに、その願書の記載事項を記載した書面及び関係図書を所定の期間公衆の縦覧に供し(42条3項、3条1項)、その公有水面の埋立てに関し利害関係を有する者は、上記の縦覧期間満了の日まで都道府県知事に意見書を提出することができるものとしている(同条3項)。
(イ) 法4条1項3号の法定環境保全計画には、環境基本法17条に基づき作成される公害の防止に関する施策に係る計画(以下「公害防止計画」という。)が含まれるところ、同法は、環境の保全に関する施策を推進し、国民の健康で文化的な生活の確保に寄与すること等を目的とするものであり(1条)、環境の保全上の支障のうち、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下及び悪臭によって、人の健康又は生活環境に係る被害が生ずることを公害と定義した上で(2条3項)、都道府県知事は、現に公害が著しく、かつ、公害の防止に関する施策を総合的に講じなければ公害の防止を図ることが著しく困難であると認められる地域等について、公害防止計画を作成することができるものとし(17条)、こうした施策の策定及び実施は、人の健康が保護され、及び生活環境が保全され、並びに自然環境が適正に保全されるよう、大気、水、土壌その他の環境の自然的構成要素が良好な状態に保持されること等の確保を旨として行われるべきものとしている(14条1号)。
公害防止計画に関するこれらの規定は、相当範囲にわたる騒音等により健康又は生活環境に係る著しい被害が発生するおそれのある地域について、その発生を防止するための総合的な施策を講ずることを趣旨及び目的とするものと解され、埋立地の用途が法定環境保全計画に違背しないことを求める法4条1項3号についても、こうした公害防止計画に係る規定の趣旨及び目的を踏まえてその適合性を審査することが求められているものというべきである。 (ウ) また、環境影響評価法は、規模が大きく環境影響の程度が著しいものとなるおそれがある事業について環境影響評価が適切かつ円滑に行われるための手続等を定め、環境影響評価の結果をその事業に係る環境の保全のための措置等に反映させるための措置をとること等により、その事業に係る環境の保全について適正な配慮がなされることを確保し、もって国民の健康で文化的な生活の確保に資することを目的とするところ(1条)、公有水面の埋立てを伴う事業については、所定の要件を満たす限り、公有水面の埋立ての事業自体とは別に、同法に基づく環境影響評価の実施や環境影響評価書の作成等をすべきものとしている(2条2項~4項、12条1項、21条2項、31条1項、環境影響評価法施行令1条、7条、別表第
1)。そして、同法は、事業の種類ごとに主務省令で定めるところにより、対象事業に係る環境影響評価の項目等を選定し、環境影響評価を行わなければならないものとし(11条1項、12条1項)、この主務省令は、環境基本法14条各号に掲げる事項の確保を旨として定めるものとしている(11条4項、12条2項)。飛行場及びその施設の設置の事業については、環境影響評価法に基づく環境影響評価の対象となる事業類型の一つとされた上で(同法2条2項1号ニ、3項、4項)、主務省令において、当該事業に係る環境影響評価の項目の選定に当たっては、一般的な事業の内容によって行われる当該事業に伴う影響要因のうち「航空機の運航」に関して、大気環境に係る環境要素中の「騒音」が上記の影響要因の影響を受けるおそれがあるものであるとして、これを勘案すべきものとされている(「飛行場及びその施設の設置又は変更の事業に係る環境影響評価の項目並びに当該項目に係る調査、予測及び評価を合理的に行うための手法を選定するための指針、環境の保全のための措置に関する指針等を定める省令」(平成10年運輸省令第36号)21条、別表第1、「防衛省が行う飛行場及びその施設の設置又は変更の事業に係る計画段階配慮事項に係る調査、予測及び評価に関する指針、環境影響評価の項目並びに当該項目に係る調査、予測及び評価を合理的に行うための手法を選定するための指針、環境の保全のための措置に関する指針等を定める省令」(平成10年総理府令第38号)21条、別表第1)。
さらに、環境影響評価法は、地方公共団体が、同法が環境影響評価の対象とする事業以外の事業に係る環境影響評価その他の手続に関する事項につき条例で必要な規定を定めることを妨げるものではなく(61条1号)、地方公共団体は、当該地域の環境に影響を及ぼす事業について環境影響評価に関し必要な施策を講ずる場合においては、同法の趣旨を尊重して行うものとされている(62条)。沖縄県においては、本件条例が、同法が環境影響評価の対象とする事業以外の事業に係る環境影響評価の手続等を定めており、本件施設の規模等に照らし、本件補正評価書のうち本件施設の設置の事業に係る部分は、本件条例に基づき作成されたものであると解される。本件条例は、規模が大きく環境影響の程度が著しいものとなるおそれがある事業について環境影響評価等が適切かつ円滑に行われるための手続等を定め、環境影響評価の結果をその事業に係る環境の保全のための措置等に反映させるための措置をとること等により、その事業に係る環境の保全について適正な配慮がなされることを確保し、もって県民の健康で文化的な生活の確保に資することを目的とするところ(1条)、飛行場及びその施設の設置の事業については、同法に基づく環境影響評価の対象となるものを除き、その規模を問わず本件条例に基づく環境影響評価の対象となり得るものとしている(2条2項、別表、沖縄県環境影響評価条例施行規則(平成13年沖縄県規則第87号)3条、別表第1)。このことに加え、本件条例において、知事は、人の健康の保護及び生活環境の保全や、公害を含む環境保全上の支障が未然に防止されること等の確保を旨として、対象事業に係る環境影響評価等が適切に行われるために必要な技術的な指針を定めるものとされていること(本件条例4条1項、沖縄県環境基本条例(平成12年沖縄県条例第15号)2条3号、9条2項1号、4号)に照らしても、本件条例は、公害を防止し、人の健康の保護及び生活環境の保全を図ることもその趣旨及び目的とするものといえ、その目的において、公害防止計画その他の法定環境保全計画との整合性を求める法4条1項3号と共通する面があるということができる。
以上説示したところに加え、前記(ア)のような環境保全図書の意義や機能等に鑑みると、法は、埋立承認の出願に係る公有水面の埋立てについて、埋立地上で実施される飛行場又はその施設の設置の事業につき環境影響評価法又は本件条例に基づく環境影響評価が実施され、環境影響評価書が作成されている場合には、当該環境影響評価書を公有水面埋立承認願書に添付すべき環境保全図書として利用することも許容しているものというべきである。
(エ) そこで、前記のような埋立承認に係る法の規定に加え、環境基本法や、埋立地の用途に係る環境影響評価について定める法令の趣旨及び目的をも参酌すると、埋立地の用途が法定環境保全計画に違背しないことを埋立承認の要件として定める法の規定は、当該用途が飛行場及びその施設の用地である場合には、当該飛行場の供用に伴い生ずる航空機騒音等によって埋立区域の周辺に居住する住民に健康又は生活環境の被害が生ずることを防止し、もって健康で文化的な生活を確保し、良好な生活環境を保全することも、その趣旨及び目的とするものと解するのが相当である。
(オ) また、埋立地の用途を飛行場及びその施設の用地とする公有水面の埋立てに係る埋立承認についてされた承認撤回を取り消す裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合、当該飛行場の供用に伴い生ずる航空機騒音等に係る被害を直接的に受けるのは、当該飛行場の存する埋立地の周辺の一定範囲の地域に居住する住民に限られ、これら住民が直接的に受ける被害の程度は、その居住地と埋立地との近接の度合い等によっては、その健康又は生活環境に係る著しい被害を受ける事態にも至りかねないようなものである。そして、埋立地の用途が法定環境保全計画に違背しないことを埋立承認の要件として定める法の規定は、その趣旨及び目的に鑑みれば、埋立地の用途を飛行場及びその施設の用地とする公有水面の埋立てに係る埋立承認について、埋立区域の周辺に居住する住民に対し、上記要件に違反する埋立承認により上記飛行場の供用に伴い生ずる航空機騒音等によってこのような健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという具体的利益を保護しようとするものと解される。承認撤回をする場合にも、その公益上の必要性の有無を判断するに当たっては、そうした埋立承認の性質や内容等を含む諸事情が考慮されるべきところ、上記のような被害の内容、性質、程度等に照らせば、この具体的利益は、一般的公益の中に吸収解消させることが困難なものというべきである。
(カ) 以上のような埋立地の用途が法定環境保全計画に違背しないことを埋立承認の要件として定める法の規定の趣旨及び目的、この規定が埋立承認の制度を通して保護しようとしている利益の内容及び性質等を考慮すれば、法は、上記規定を通じて、埋立地の用途と環境保全に係る国及び地方公共団体の施策との整合性を確保するとの公益的な見地から埋立承認を規制するとともに、その埋立地の用途が飛行場及びその施設の用地であるものについては、上記飛行場の供用に伴い生ずる航空機騒音等によって健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある個々の住民に対して、そのような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である。
したがって、埋立地の用途を飛行場及びその施設の用地とする公有水面の埋立てに係る埋立区域の周辺に居住する住民のうち、当該飛行場の供用に伴い生ずる航空機騒音等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は、当該公有水面の埋立てに係る埋立承認についてされた承認撤回を取り消す裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消しを求める原告適格を有するというべきである。
イ 他方、法は、埋立承認に関し、公有水面の埋立て自体については、環境保全と災害の防止とを区別した上で、これらいずれについても十分配慮されたものであることをその要件として規定しているが(42条3項、4条1項2号)、埋立地の用途について規定する同項3号は、環境保全に関する要件を定める一方、埋立地の用途から直接生ずる災害の防止については定めていない。そして、飛行場及びその施設の設置の事業について環境影響評価法又は本件条例に基づき実施される環境影響評価手続は、航空機の航行の安全性を評価等の対象とするものではない。
また、法42条3項、4条1項1号は、埋立承認の要件として、国土利用上適正かつ合理的であることを定めているが、これは、出願に係る公有水面の埋立てや埋立地の用途が、国土利用上の観点から適切かつ合理的なものであることを求めるものであって(最高裁平成28年(行ヒ)第394号同年12月20日第二小法廷判決・民集70巻9号2281頁参照)、埋立地の用途が飛行場及びその施設の用地である場合に、上記の規定が埋立区域の周辺に居住する住民の航空機の衝突や墜落事故といった航空機の航行に直接起因する被害を受けないという具体的利益を保護することを目的として埋立承認に係る権限行使に制約を課しているものと解することはできない。他に、法において、埋立地の用途を飛行場及びその施設の用地とする公有水面の埋立てに係る埋立承認につき、上記被害を受けないという具体的利益を保護することを目的としてその権限行使に制約を課しているものと解すべき規定は見当たらず、空港の周辺における建造物の高さ制限について定める航空法の規定も、埋立承認の根拠となる法令と目的を共通にするものということはできない。
以上によると、埋立承認について定める法の規定は、埋立地の用途を飛行場及びその施設の用地とする公有水面の埋立てに係る埋立承認について、埋立区域の周辺に居住する住民に対し、航空機の衝突や墜落事故といった航空機の航行に直接起因する被害を受けないという利益を個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨を含むものと解することはできない。
したがって、埋立地の用途を飛行場及びその施設の用地とする公有水面の埋立てに係る埋立区域の周辺に居住する住民について、上記被害を受けるおそれがあることを理由として、当該公有水面の埋立てに係る埋立承認についてされた承認撤回を取り消す裁決の取消しを求める原告適格を認めることはできない。
ウ(ア) そこで、被上告人らが前記ア(カ)の著しい被害を直接的に受けるおそれのある者かどうかを検討すると、埋立地の用途を飛行場及びその施設の用地とする公有水面の埋立てに係る埋立区域の周辺に居住する住民が上記の者に当たるか否かは、当該住民の居住する地域が上記の著しい被害を直接的に受けるものと想定される地域であるか否かによって判断すべきであり、当該住民の居住する地域がそのような地域であるか否かについては、埋立地に設置される飛行場の種類、規模、形状等の具体的な諸条件を考慮に入れた上で、当該住民の居住する地域と当該飛行場との距離関係等を中心として、社会通念に照らして合理的に判断すべきものである。
(イ) 前記事実関係等によれば、本件騒音予測図は、本件施設が米軍の航空機の離陸や着陸等の用に供されるものであることなど、その種類、規模、形状等の具体的な諸条件を考慮してその供用後に生ずる航空機騒音の程度を予測し、その結果を表示したものといえる。そして、航空機騒音環境基準告示は、航空機騒音に係る人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準(環境基準)を、専ら住居の用に供される地域につきW値70以下としている。被上告人X 1らの居住地は、70W線の外側に位置するものの、本件騒音予測図における70W線との距離は90.1m~194.0mにとどまり、70W線の付近に位置するものということができる。このような被上告人X 1らの居住地と本件騒音予測図における70W線との距離関係に加え、上記のような本件騒音予測図の内容やその作成経緯等も考慮すると、被上告人X 1らについては、本件施設の供用に伴い生ずる航空機騒音等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けることが想定される地域に居住するものというべきであり、上記の著しい被害を直接的に受けるおそれのある者に当たると認められるから、本件裁決の取消しを求める原告適格を有するものと解するのが相当である。
(ウ) これに対し、被上告人X3の居住地は、70W線の外側に位置する上、本件騒音予測図の70W線の付近に位置するものともいえないことなど、上記居住地と本件騒音予測図における70W線との距離関係等に照らせば、同被上告人については、本件施設の供用に伴い生ずる航空機騒音等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けることが想定される地域に居住するものということはできないから、上記の著しい被害を直接的に受けるおそれのある者に当たるとは認められない。また、他に、被上告人X3 が本件裁決の取消しを求める原告適格を有すると解すべき根拠は記録上も見当たらない。
したがって、被上告人X 3 が本件裁決の取消しを求める原告適格を有すると解することはできない。
5 以上によれば、被上告人X3が本件裁決の取消しを求める原告適格を有するとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この点に関する論旨は上記の趣旨をいうものとして理由があり、原判決中被上告人X 3に関する部分は破棄を免れない。そして、以上説示したところによれば、被上告人X3 の訴えは不適法であり、これを却下した第1審判決は結論において正当であるから、上記部分につき同被上告人の控訴を棄却すべきである。
他方、被上告人X1 らが本件裁決の取消しを求める原告適格を有するとした原審の判断は、結論において是認することができ、この点に関する論旨は採用することができないから、上告人の被上告人X1らに対する上告は棄却すべきである。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 ( 裁判長裁判官 宮川美津子 裁判官 安浪亮介 裁判官 堺徹 裁判官 中村愼 裁判官 阿多博文)